合理的配慮とは
合理的配慮とは、障害のある人から、社会の中にある障壁を取り除くための対応を必要としていることが伝えられたときに、行政機関や事業者などが、過重な負担にならない範囲で必要な変更・調整を行うことです。
同じ場所で同じ方法を全員に求めると、一見平等に見えても、障害のある人だけが参加できない場合があります。合理的配慮は、評価の目的やサービスの本質を変えずに、参加を妨げている条件を調整する考え方です。
たとえば、知識を測る試験で、書字の困難によって内容を十分に示せない人にパソコン解答を認めることは、正解を教えることではありません。測りたい知識と無関係な障壁を減らすための調整です。
法律ではどう定められているか
合理的配慮の中心的な法的根拠は、障害者差別解消法です。行政機関等については第7条第2項、事業者については第8条第2項に規定されています。2024年4月1日から、事業者による合理的配慮の提供も法的義務となりました。
障害者差別解消法 第8条第2項
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
出典:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)第8条第2項
条文の重要な要素は、「社会的障壁の除去が必要だという意思の表明」「性別・年齢・障害の状態に応じた対応」「必要かつ合理的な配慮」「過重な負担ではないこと」です。本人から希望が示されたら、可否だけを即答するのではなく、何が障壁となっているかを確認し、実現可能な方法を話し合います。
雇用分野では別の法律も適用される
障害者差別解消法第13条は、行政機関等や事業者が「事業主」として労働者に対応する場合、障害者雇用促進法によることを定めています。募集・採用や採用後の職場では、障害者雇用促進法第36条の2から第36条の4などに基づき、事業主に合理的配慮の提供が求められます。
発達障害と社会的障壁
発達障害は外見から分かりにくいことがあり、同じ診断名でも、困難が生じる場面や有効な方法には大きな個人差があります。診断名から配慮を自動的に決めるのではなく、本人が実際に直面している障壁を確認する必要があります。
発達障害者支援法 第2条第2項・第3項
この法律において「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいい、「発達障害児」とは、発達障害者のうち十八歳未満のものをいう。
この法律において「社会的障壁」とは、発達障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
出典:発達障害者支援法(平成16年法律第167号)第2条第2項・第3項
困難は本人の特性だけで生じるとは限りません。曖昧な指示、急な予定変更、強い照明や騒音、手書きだけを認める手続、口頭説明だけで進む授業など、環境や制度との組み合わせによって社会的障壁が生まれます。
合理的配慮を決める流れ
- 本人の意思と困りごとを確認する診断名ではなく、どの場面で何ができず、どのような影響が出ているかを確認します。
- 活動の本来の目的を確認する知識を測る試験なのか、手書き技能を評価する課題なのかによって、可能な変更は異なります。
- 複数の方法を検討する本人の希望を出発点に、同じ目的を達成できる代替案も含めて話し合います。
- 実施内容を記録する誰が、いつ、どの場面で、どの配慮を行うかを共有します。障害情報の共有範囲は本人の意向とプライバシーに配慮します。
- 実施後に見直す配慮が有効だったか、新たな負担が生じていないかを確認し、必要に応じて調整します。
本人の希望どおりの方法が難しい場合も、そこで話を終わらせず、目的を満たす別の方法を一緒に検討する「建設的対話」が重要です。
発達障害への具体的な合理的配慮
次の内容は例であり、発達障害のあるすべての人に必要・有効という意味ではありません。本人の状態、希望、活動の目的、環境に応じて個別に検討します。
学校で考えられる配慮
口頭指示だけでなく、短い文章、写真、図、チェックリストで手順を示します。
変更点、変更理由、次にすることを可能な範囲で早めに伝えます。
座席位置を選べるようにする、静かな場所を用意する、必要に応じてイヤーマフ等を認めます。
学習目的を損なわない範囲で、パソコン入力、口頭回答、選択式などを検討します。
大学・試験で考えられる配慮
読み書き速度などの根拠と試験形式を確認し、必要な延長時間を個別に検討します。
書字困難があり、タイピングに習熟している場合などに検討します。
拡大文字、読み上げ、タブレット表示などが本人に有効か、事前に試します。
別室や座席位置を検討します。ただし、別室がかえって不安を高める人もいるため、本人の意向を確認します。
高橋知音氏のレビュー論文では、発達障害のある大学生への時間延長には有効性を示す研究がある一方、パソコン解答はタイピングへの習熟が必要であり、別室受験は人によって効果が異なると整理されています。診断名だけでなく、機能障害の状態と実際の効果を確認することが重要です(高橋, 2022, pp. 172, 178–184)。
職場で考えられる配慮
担当者を決め、指示を一つずつ出し、作業手順を図や文章で示します。
期限、重要度、完了条件を明確にし、途中で確認できる機会を設けます。
静かな休憩場所、耳栓やサングラス、通院や体調に応じた勤務調整などを検討します。
口頭だけでなくチャットやメールも用い、指示内容を後から確認できるようにします。
厚生労働省の指針や事例にも、発達障害のある労働者への配慮として、担当者の設定、明確なスケジュール、図を使った作業手順、感覚過敏への対応などが示されています。
「過重な負担」とは
合理的配慮は、実施に伴う負担が過重でない場合に求められます。ただし、「手間がかかる」「前例がない」という理由だけで直ちに拒否できるという意味ではありません。
内閣府の基本方針では、事務・事業への影響、実現可能性、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況などを総合的・客観的に判断するとされています。過重な負担に当たると判断した場合も、その理由を本人へ丁寧に説明し、別の実現可能な方法を検討することが重要です。
学年、担当業務、環境、本人の状態が変われば、必要な配慮も変わります。定期的に効果を確認し、過不足を調整します。
合理的配慮に関するよくある質問
診断書や障害者手帳がなければ求められませんか?
障害者差別解消法の対象は、障害者手帳を持つ人だけに限定されていません。一方、希望する配慮の必要性や内容を確認するため、場面や配慮内容によって診断書、検査結果、専門家の意見、過去の支援記録などが求められることがあります。
希望した配慮は必ずそのまま認められますか?
必ずしも希望どおりになるとは限りません。本人の希望、活動の本質、実現可能性、過重な負担などを確認し、難しい場合は代替案も含めて話し合います。
発達障害なら全員に同じ配慮をすればよいですか?
同じ診断名でも、困難や有効な方法は異なります。一律の対応ではなく、本人との対話と実際の状況に基づいて決めます。
合理的配慮を断られたときはどこへ相談できますか?
まず、対応した部署の相談窓口や責任者へ、困っていることと希望する対応を具体的に伝えます。学校・大学では障害学生支援や教育相談の窓口、職場では人事・相談窓口、労働局やハローワーク、一般のサービスでは自治体の障害者差別に関する相談窓口などが候補になります。
まとめ
合理的配慮は、障害のある人が社会へ参加するときに生じる障壁を取り除くための、必要かつ合理的な変更・調整です。2024年4月からは、行政機関等だけでなく事業者にも、過重な負担にならない範囲で合理的配慮を提供する法的義務があります。
発達障害は、同じ診断名でも困難の現れ方が異なります。診断名から一律に対応を決めず、本人の意思、実際の障壁、活動の目的、有効性を確認し、複数の方法から個別に検討することが大切です。